いじめ問題を考える
米子診療所長 心療内科 岸本 朗
一向に収束しないいじめ
約1年前、私は日本の学校に蔓延する”いじめ”について、本誌にいじめが発生する機制(メカニズム)について詳しく説明を行った。しかし、現在の日本の教育現場においては相変わらず、”いじめ”が蔓延し、一向に収束する気配はない。次々にいじめ被害を契機とする自殺者を出し、最近ではインターネットの書込みを用いた新手の”いじめ”が急増しているという。また学校職員間では、今度は教育委員会や学校長が、学校教職員に対して、まるで、”いじめ”まがいの管理・指導を行い、職員の行動を過剰支配している現状がある(こうした職場上司の行為は、近年ではモラル・ハラスメントといわれている。モラル・ハラスメントとは主に職場の上司や家庭では主に父親が、部下や家族の一員に向かって、その存在や行動を非論理的に罵倒したり、軽蔑する内容の攻撃を加えることで、例えば相手を口汚く人前で罵倒したり、「○○(例えば学校であれば、相手の職員)は本来、教員には向いていない」などと、本来の能力・将来性をも否定する屈辱的な言動を与えることをいう)。
いじめの克服は緊急課題
またその一方では、”いじめ”に関連した二次的問題の発生もあり、例えば生徒の父兄間には学校の指導力を危惧する不安や不満が鬱積し、放課後には学校での生徒指導のあり方を糾弾する抗議・電話が殺到するという。
つまり学校に対する信頼性が著しく失われている状況がみられる。こうした状況を踏まえて、日本の現主相が”教育再生”と名打った施策・対策を最重要課題に掲げるまでとなっている。
かつては、高い就学率・高い学力水準を誇っていた日本の教育は、何故この様な状況になってしまったのだろうか。現在の日本の教育関係者は、こうした状況をどのようにみているのであろうか。現状において”いじめ”の克服は現代日本の教育分野における緊急課題ではないだろうか。
こういう状況にたち、今回私は再び”いじめ”、特にその克服について、改めて意見を述べてみたい。前回のシリーズで私は”いじめ”は嗜癖(アデイクション)という習慣性悪癖であるという観点から、”いじめ”を解説した記事を掲載した。
いじめは嗜癖
前回 私が主張した、”いじめ”の 嗜癖説をここに改めて簡略にのべると、嗜癖は個人が、心の空虚感【空虚感とは、怒り・満たされなさ・寂しさ・劣等感など多くの精神的不満足を指す】を紛らわすために、人が選択、摂取する行動・薬物への依存などで、具体的には、”アルコール依存”【物質嗜癖という】だけでなく、”ギャンブル依存”、”買い物依存”【行為的嗜癖という】、”差別、いわゆる部落問題”、”新入部員、新入社員いびり”、”嫁・姑いびり”【関係嗜癖という】などの型があることを述べた。また、 嗜癖行為は誰であっても心が寂しいとき、腹が立ってもその発散方法がないとき、あるいは空虚感を感じたときなどに自分でも知らず知らずのうちに行ってしまう行動であり、故に”いじめ”の被害者がいつの間にか加害者に代わっていたりすること、しかも 嗜癖 には一様に強い習慣性(持続すること、癖になることをいう)があることなどを述べた。現在この嗜癖研究は、嗜癖行為の類似行為である多くのハラスメント(モラル・ハラスメント、セクシャル・ハラスメント、ドクター・ハラスメント、ネグレクト・ ハラスメント、アカデミック・ハラスメントなど多くのハラスメントがあるとされる)研究と共同歩調を取って、さらに大きく発展しつつある。
”いじめ”克服にむけて
今回の項では、”いじめ”をいかに克服していくかを、改めて簡略に述べてみたい。いじめられて心に傷を受け、その結果、不本意にも不登校となったり、転校を余儀なくさせられたり、人間不信になっていく子ども達に手を差し伸べて”いじめ”を克復していくことは、教育を受ける機会均等保障の第一歩であり、児童が人間の弱さを克服し、人間の暖かさ、人の”絆”を体得していくうえで、大きな力を与えてくれるであろうと思うからである。
一般的に言えば、@全ての嗜癖は閉鎖空間(その組織に関係する人間だけで、構成された人間環境空間)で起こり、A嗜癖行為者【”いじめ”の場合、その加害者】は、その行為を行うことによって快感を得ており、B嗜癖はストレスの強い環境・状況において顕在化することなどが知られている。
従って嗜癖としての”いじめ”をなくするためには、右に述べた@ABの要素を逆手にとること、即ち、@への対策としては”いじめ”の行われている閑居王を外部空間にさらす【”いじめ”の起こる空間を、学校部外者にも開放:特に父兄の出入りを許可することが”いじめ”撲滅に有効で、
Aへの対策としては、全ての教職員・生徒に、”いじめ”の実態は、「攻撃によって得られる快感の獲得は、嗜癖行為をひき起こす最大要因であるとされる)悪癖は行ってはならない」という教育が必要となる。
次にBとしては、いじめっ子の感じている空虚感を少なくするために、学校では多軸的に生徒を評価し、多方面から評定することで、いじめっ子の長所を見出してやる(即ち、存在感を認めてやる)ことが必要になる。以上の三点を集中的に改善すれば、”いじめ”は駆逐されるであろうというのが、私の考えである。
”いじめ”対策の効果
次に私の提案しているこの”いじめの嗜癖説と対策”に基づいて、愛媛県在住の一精神科医師【宇都宮克也医師】が、カウンセラーとしてパート赴任していた小・中学校で生徒に”いじめ”の嗜癖の病理を講義し、他の私の提言を実行したところ、いじめは対策施行前の約1/4に減少したことを、日本精神神経学会地方会で報告している。なお彼は、残った”いじめ”は全て、【”いじめ”の悪性度としては比較的軽微な範疇に入る】”無視(しかと)”であったと報告している。私は、宇都宮医師が行ってくれた施行、私の主張する”いじめ”の嗜癖説が正しいことを証明してくれたものと考えている。現在学校で蔓延している”いじめ”については、いろいろ論議されても未だ明確な対策は打ち出されておらず、有効な対策は未だ霧の中にあるといっても過言ではない。私は、学校現場で、以上の私の提言対策を施行する時を迎えているのではないかと考えている。
